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「俺の右手が疼くんだ……」
厨二病を拗らせたオタクはそう言ったと、ネットの噂で聞いたことがある。言った本人がどんな人なのか知る由もない。なんでそんなことを言うのだろうか、ふと考えてみるとやはり漫画とかアニメの影響なのだろうなと思う。おそらく「理性が効かない」ってことなんだろう。
ただ、これは二次元に限られたことではない。理性が効かなくなって人を殺めてしまったり発砲してしまったり、大したことから大したことのないものまで色々あるのだろうが、先日の僕の場合、ちょっと危ないことがあった。
「左手の制御が効かなくて……」
ベッドに横になりながら、僕は通話相手にそう言った。以前から''緊急の電話''と称しており、自分が危ないなと思った時は信頼できる誰かに電話するようにしている。細かい話はここでは避けるが(悲しいので)、今回は珍しい症状だった。ちょっぴり呼吸が乱れた後、珍しく涙が出たし──もちろん何で涙が出てくるのか分からないまま──横になってから腕を目を覆うように顔に当て、色々なことを考えた。
「なんで泣いてるんだろう、頭の中ではちゃんと大丈夫だって分かっているのに……」
心の奥底で何かに不安を感じているから涙が出てくるのだと推察していたため、涙が出た場合「大丈夫大丈夫」と言い聞かせるようにしているのだが、その「大丈夫」が出てこなかった。
分かっていても涙が流れてしまう
身体が別の自分に支配されてる感覚があった。内に潜んだ、バケモノめいた自分が表出していたのだと今はなんとなく分かる。再び呼吸が荒れる。落ち着こうとするが落ち着かない。とりあえず電話できそうな人にLINEを送る。送ってほっとしたが、返事がなかなか来ない。普段電話しない人にもLINEを送る。
とりあえず、待とう。
僕は祈るように毛布に抱きついた。が、どうも落ち着かない。気付けば左手は太腿のあたりにあり、そこら辺のシーツに爪を立てていた。無意識に左手は右腕に走っていた。のこぎりで木を切るように、熊の手で右腕を往復し、なぞる。(そこまで強い力ではなかったが、その後痒くなった)
意識はあったしその様子を視認していたが、頭に気が回っていたのですぐに止められなかった。あれ、と思って左手を意識で制御する。とりあえず右腕の手首を掴ませる。その後数秒間、左手は貧乏ゆすりで机を叩くようにタカタカと動いていた。
これはヤバイやつだ、もういい、寝てるかもしれないところに申し訳ないが誰かに電話しなければ。誰かの声を聞かなければ。
とりあえず電話をかけてみる。あ、よかった繋がった。諸々の状態を話して、やっと落ち着く。安堵のため息がたくさん出た。迷子になった子供の母親を見つけてほっとするような。
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わりとちゃんと書いてみました。貴重な体験だからね。それにしても頼れる人がいて良かったです。死なない程度に生きよう。